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司法書士 田口司法事務所 スタッフブログ

 

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窃盗罪1―不法領得の意思

No.62  平成23年8月1日(月)
 
「詐欺罪」に続き、刑法の回は、今回から数回にわたって刑法第2
35条の「窃盗罪」についてお話しさせていただきます。
 
窃盗罪が成立するためには、No.58でお話をした故意の他に、「不法
領得の意思」が必要となります。
不法領得の意思とは、権利者を排除して所有者として振る舞う意思
である「振舞う意思」と、物の経済的用法ないしは本来の用法に従
って利用処分する意思である「利用処分意思」のことをいいます。
なぜ窃盗罪が成立するためにこの不法領得の意思が必要かというと、
不可罰である使用窃盗や、毀棄・隠匿罪と窃盗罪を区別する機能が
あるからなのです。
振舞う意思は、軽微な一時使用を窃盗罪などの領得罪(その物の経
済的価値を取得する意思をもって財産を侵害する犯罪)から除外す
る機能をもち、利用処分意思は、領得罪と毀棄・隠匿罪とを区別す
る機能をもっています。
 
とはいえ、これだけでは何のことか分かりにくいですよね。具体例
を通してみていきましょう。
まず、振舞う意思から。
判例は、返還意思がある場合は不法領得の意思が認められないとし
て、不可罰としてきました。
例えば、自転車を一時使用の目的で奪った場合、すぐに返すつもり
であれば不法領得の意思は認められません。一方、返す意思はなく、
途中で乗り捨てるつもりであれば、不法領得の意思が認められます。
しかし、「自動車」を夜間無断使用翌朝
位置
に戻しておくことを何日も繰り返した事例に対して、「相当長
時間にわたって乗りまわしているのだから、たとえ返還意思があっ
ても不正領得(不法領得)の意思が認められる」として、窃盗罪が
成立するとした判例があります。また、「元の位置に戻しておくつ
もりで」約4時間余り他人の自動車を無断で乗りまわした場合にも
不法領得の意思を認めたものがあります。
 
次に、利用処分意思について。
リーディング・ケースとして、校長を困らせる意図で学校の金庫か
ら教育勅語を持ち出して校舎の天井裏に隠したという事例に対して、
利用処分意思は認められず窃盗罪にはならないと判示したものが有
名です。「単に物を壊したり隠したりする意思があるだけでは、利用
処分意思があるとはいえない」というのがその理由で、判例は、そ
の後も一貫してこの立場を採っています。
 
なお、不法領得の意思の内容について、「振舞う意思」、または「利
用処分意思」のいずれかであるとする見解が有力に主張されていま
すが、私は、一時使用や毀棄・隠匿罪との区別を明確にするために
は、いずれか一方のみでは十分ではないという立場に立っています。
 
 
今朝のお供、
Derek and the Dominos(アメリカのバンド)の『いとしのレイラ』。

                      (佐々木 大輔)
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