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絵本のはなし
No.146 平成28年2月15日(月)
年が明けてから、あまり明るいとはいえないニュースが続き、また、
人々の過剰な反応にも息苦しさを感じておりましたが、そんな中、
大人の間で絵本が再び注目されているという記事にふと目を奪われ
ました。
私は、絵本のことを思うと懐かしさがこみ上げ、不思議と穏やかな
気持ちになります。
私が大人になった今も読書好きである原点には、幼い頃、両親から
読み聞かせてもらった絵本の体験があります。
楽しい絵本、美しい絵本、そして怖い絵本。
なかでも特に思い出に残っているのは、せなけいこ著『ねないこ
だれだ』です。親が子を寝かしつけるためのいわゆる教育絵本とい
うものでしょうか。
夜の9時。
「とけいが なります ボン ボン ボン…」
「こんな じかんに おきてるのは だれだ?」
「ふくろうに みみずく」
「それとも どろぼう」
「いえ いえ よなかは おばけの じかん」。
挿絵は切り絵で、ふくろうや泥棒が何とも言えない不気味さを醸し
ています。
パジャマ姿でぬいぐるみを持って夜更かしをしている男の子、最後
はおばけに連れられて(男の子もおばけのシルエットになって)、
夜空に飛んで行ってしまいます。
とても怖い絵本でした。にもかかわらず、怖いもの見たさもあった
のか、毎日のように「読んで、読んで」とせがんだと聞いています。
絵本の余白には、幼い私が書いた字とも絵ともつかない書き込みが
たくさんあります。いたずら書きのようですが、よく見ると「これ
はふくろうを描きたかったんだろうな」と思わせるような書き込み
があったり、ストーリーを追いかけるように線が引いてあったり、
改めて手に取ってみても、本当にお気に入りの絵本だったんだなあ
ということが分かります。
江國香織はその著書『絵本を抱えて 部屋のすみへ』の中で、子供
の頃に部屋の隅で遊んでいると、もっと真ん中で遊びなさいと言わ
れたことを引き合いに、「でも部屋というものは、まんなかとすみ
では時間の流れ方も空間の質も全然ちがうわけで、絵本のなかのそ
れとは、あきらかに部屋のすみの方が近いのでした」と書いていま
す。
私の場合、少し大きくなって自分で絵本を読むようになってからは、
部屋のどこで絵本を広げて読んでいたのか覚えていませんが、幼い
頃は、寝る前に布団の中で読んでもらうのが好きでした。
その影響が残っているのでしょう、今も読書をするのに一番落ち着
く場所は、カフェでもバーでもソファでもなく、ベッドの中です。
今朝のお供、
デヴィッド・ボウイ(イギリスのミュージシャン)の『★(ブラッ
クスター)』。
ボウイは最期まで変わらなかった。「マンネリ」という意味ではな
く、常に進化を続ける姿勢を貫いたという意味で。
たくさんの色気と華と毒をありがとうございました。ご冥福をお祈
りします。
(佐々木 大輔)