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消滅時効
No.123 平成26年6月30日(月)
今回はちょっとだけ法律のお話を。
現在、民法の改正作業が進められています。現行の民法は、なんと
明治29年に制定されたものであり、これまでも時代に合わせて細
かい改正は加えられてきましたが、今回の改正は、約120年振り
の大改正です。
そんな中、先日、「消滅時効」の改正について新聞に取り上げられ
ていましたので簡単に説明します。
現行の民法では、債権の消滅時効(行使できる権利を一定期間行使
しない場合、その権利を消滅させる制度)は原則10年とされてい
ますが、飲食店のツケ払い(1年。民法第174条第4号)や塾の
授業料(2年。民法第173条第3号)、診療費(3年。民法第1
70条第1号)など日常生活に密接に関わる一定の債権については、
1年から3年の短期消滅時効が定められています。
新聞によると、法務省が、この短期消滅時効を一律5年に統一する
方向で検討しているとのことでした。たしかに、業種ごとに債権の
消滅時効が異なっているのは分かりにくいですし、業種間に不平等
感が生じるのも無理のない話です。
例として上で挙げた飲食店のツケ払いがらみでもうひとつ。
「出世払いでいいよ」という言葉を聞くことがあるかと思いますが、
出世払いとは、法律上は不確定期限(発生時点が不明な期限)と解
されています。
つまり、出世すればもちろんのこと、出世しないことが明らかとな
った場合も、その時点で支払義務が生じてしまうのです。
通常、「出世しなかったから支払わなくてもいい」という契約はし
ない(意思ではない)との理由によるもので、大正4年に大審院
(最高裁判所の前身)で判断されて以来、現在までその判断は変わ
っていません。
もちろん、出世払いにも消滅時効はありますが―期限が到来した時
(出世した時又は出世の見込みがなくなった時)から時効期間が開
始します―
今朝のお供、
Led Zeppelin(イギリスのバンド)の『Led Zeppelin Ⅱ』。
(佐々木 大輔)
合理的区別と差別
No.111 平成25年11月5日(火)
11月3日は文化の日。日本国憲法が公布された日です。
そこで今回は、少しだけ憲法にまつわるお話を。
結婚していない男女の間に生まれた非嫡出子(婚外子)の遺産相続
分を、嫡出子の半分と定めた民法の規定(第900条第4号ただし
書前段)が、法の下の平等を保障した憲法第14条第1項に違反す
るかどうかが争われた事案で、去る9月4日、最高裁判所大法廷は、
14人の裁判官が全員一致で、本件規定を「違憲」とする判断を示
しました。戦後9件目の違憲判決です。
違憲判決を受けて、国会は、早急な法改正が必要となります。
最高裁は理由中で、「婚姻、家族の在り方に対する国民意識の多様化
が大きく進んでいることが指摘されている」ことを挙げ、また、諸
外国が非嫡出子の相続格差を撤廃していることに加え、平成8年に
は法制審議会が、両者の相続分の同等化を内容の一部とする「民法
の一部を改正する法律案要綱」を答申するなど、国内でも以前から
同等化に向けた議論が起きていたことを指摘しています。
そして、「法律婚という制度自体が定着しているとしても・・・子
にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてそ
の子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重し、そ
の権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものと
いうことができる」とし、「遅くとも(相続が開始した)平成13年
7月当時において、憲法14条1項に違反していた」と結論付けま
した。
ただし、今回の違憲判断が、「既に行われた遺産の分割等の効力にも
影響し、いわば解決済みの事案にも効果が及ぶとすることは、著し
く法的安定性を害することになる」として、審判や分割協議などで
決着した事案には、影響を及ぼさないことも明示しました。
このように最高裁の判断が示され、非嫡出子の法定相続分について
一応の決着をみましたが、国民の受け止め方は多種多様のようです。
皆さんはどのように受け止められたでしょうか。
今朝のお供、
Eagles(アメリカのバンド)の『Hotel California』。
(佐々木 大輔)
売買3―担保責任
今回も民法の回です。
売買の目的物(権利及び物)について、売主が一定の保証をしてい
ることに基づく特殊な責任を担保責任といいます。この責任は、売
主の履行が終わった後に問題となります。
担保責任の中でも、特に物の瑕疵(キズ)に関する責任を瑕疵担保
責任といい(民法第570条)、最も重要なものとされています。
なぜ担保責任が認められるのかという法的性質については、法定責
任説と契約責任説が対立しています。
法定責任説とは、瑕疵担保責任は特定物(世界に一点物の名画など)
についてのみ特別に法律によって認められた責任であるとする説で
す。つまり、特定物の場合には、たとえ隠れたキズのあるフェルメ
ールの絵『真珠の耳飾りの少女』を引き渡したとしても、キズの無
い絵はこの世に存在しないのだから、その絵を現状のまま引き渡せ
ば義務を果たしたことになります。しかし、隠れたキズは無いと思
って買った買主の期待を保護するために、特に法律が認めた責任が
瑕疵担保責任であると考えます。
しかし、1970年代、この見解に対して、「特定物は瑕疵担保責任、
不特定物は債務不履行責任という区別が必要なのか」という有力な
批判がなされ、代わって主張されたのが契約責任説です。
契約責任説とは、特定物・不特定物を問わず瑕疵担保責任の適用を
認め、瑕疵担保責任の規定がないところには一般原則である債務不
履行責任の適用を認めるとする説です。民法起草者の趣旨、現在の
国際的潮流にも合致するとして、現在の通説となっています。
それでは裁判所はどのように考えているのでしょうか。
少し難しいのですが、現在のリーディングケースとされる昭和36
年の判例は、「不特定物売買の給付物に隠れた瑕疵があった場合、債
権者(買主)が一度受領しても以後買主が債務不履行責任を追及で
きないとはいえず、買主が瑕疵の存在を認識したうえでこれを履行
として認容し、瑕疵担保責任を問うなどの事情があれば格別、そう
でない場合には買主は受領後も債務不履行責任の追及として、損害
賠償請求・解除ができる」と判示し、契約時には知らなかった瑕疵
の存在を認識したうえで履行として認容したのでない限り、債務不
履行の問題であると判断したのです。
この判例の解釈は難しく、未だに不明確であると批判の強いもので
すが、この判例以前の大正14年の判例は目的物が「特定」されて
いるか否かを判断基準としていたことからすると、「特定」という基
準を重視しない方向に動いていると考えるのが現在の通説的立場の
ようです。
なお、司法試験予備校などの指導で、未だ法定責任説を通説と扱っ
ていることに対しては、あくまでも「司法試験の論文答案を書きや
すいから」という理由にすぎないとして、民法学者から厳しい批判
がなされているのも事実です。
今朝のお供、
ARCTIC MONKEYS(イギリスのバンド)の『SUCK IT AND SEE』。
友人から勧められた彼らの4枚目のアルバム。荒削りなデビューア
ルバムと比べるとかなり落ち着いた感がありますが、音楽の幅が広
がっており、私は楽しめました。
(佐々木 大輔)
売買2―買戻しと再売買予約
今回も民法の回です。
前回に引き続き、「売買」についてお話をします。
売買に付随する契約として、手付のほかに「買戻し」という制度が
あります(民法第579条~第585条)。
買戻しとは、たとえばAが所有する土地をBに売却する際、それと
同時に、「後日、Bの払った代金及び契約費用をAがBに返還して、
Aが当該売買を解除する」旨の特約をすることをいいます。
ただし、買戻しには、①対象は不動産のみ、②権利行使できる期間
は最長10年(期間を定めなければ5年以内)、③第三者に対抗する
には登記が必要、といった一定の制限がかけられています。
買戻しは、債権の担保として用いられます。つまり、AがBからお
金を借りる場合、自分の土地をBに売却し、その代金として金銭を
得ます。そして買戻期間内に、AはBに代金及び契約費用を返還し
て、売却した土地を取り戻します。仮にAが返還できなかった場合
には、Bは土地の所有権を取得できますので、Bは安心してお金を
貸すことができます。
民法起草者は、金融の世界で古くから行われていた買戻しを容認せ
ざるを得なかったものの、上記のような制限をかけることで、でき
るだけ買戻しの規制を図りました。
ところが、実務上、制限の多い買戻しの代わりに「再売買予約」と
いう方法を用いることで同一の目的を達成でき、判例が再売買予約
を有効と認めたことから、買戻しに対する規制は潜脱されることに
なってしまいました。
再売買予約とは、たとえばAがBに売却したA所有の土地を、将来
BがAに売り渡すこと(再売買)の予約をいいます。AがBに代金
+αを支払えば、Aは予約完結権を行使することができ、土地を取
り戻すことができます。
再売買予約は、対象も不動産に限らず(実務上は、登記ができる不
動産について運用されています)、権利行使できる期間も自由(期間
を定めなければ10年)で、仮登記で第三者に対抗することができ
るなど、買戻しに比べ制限が緩くなっています。
今朝のお供、
The Beatlesの『Please Please Me』。
友人がビートルズのBOXセットを購入したとの話を聞き、影響さ
れました。これが時代を変えた瞬間の音。タイトルのレトリックも
秀逸です。
(佐々木 大輔)
売買―手付
今回は民法の回です。
今回から数回にわたって、民法555条の「売買」についてお話を
させていただきます。
「売買」とは、当事者の一方(売主)がある財産権の移転を約束し、
相手方(買主)がこれに対してその代金を支払うことを約束すれば
成立します。コンビニでおにぎりを買う場合など、皆さんにとって
最も身近な契約ではないでしょうか。
コンビニのおにぎりからマイホームまで、売買契約の対象は様々で
すが、高額な売買契約の場合、簡単に契約を解除されては困ります。
そこで、我が国の民法では、売買に付随する契約として「手付」(5
57条)という契約を定めています。
「手付」とは、売買などの契約の際、一方から他方へ(売買の場合
は買主から売主へ)支払われる金銭や有価物をいいます。手付の額
は、代金の1割から2割が相場とされているようです。
手付にはさまざまな機能がありますが、主なものとして、契約成立
の証拠とされる証約手付、解除権留保の対価とされる解除手付、債
務不履行の場合の違約金とされる違約手付があります。
ところが、この手付、契約の際にどのような趣旨の手付であるかが
定められていない場合がけっこうあるのです。そのため、差し入れ
られた金銭がそもそも手付であるのか、また、手付であるとしてど
のような趣旨の手付であるのか、という問題が生ずるのです。
まず、手付であるかについては、その金額の多少によって判断され
ることが多いようです。代金の半分を差し入れたとなれば、それは
手付というより債務の一部履行と考えるのが自然でしょう。
次に、どのような趣旨の手付であるかについて、民法557条は、
「当事者の一方が履行に着手するまでは、買主は手付を放棄して解
約が可能、売主は手付の倍額を買主に返して解約が可能」と定めて
いますので、原則として解約手付であると解釈されます。ただし、
この規定は任意規定であるため、これと異なる趣旨の手付の合意も
禁止されていません。そこで、ある手付の合意がなされた場合、5
57条の解約手付の趣旨を排除するものであるのかどうかが問題と
なります。この点について判例は、違約手付の合意があった事案に
ついて、その手付は同時に解約手付でもあり得るという判断を示しました。
最後に557条について、「履行の着手」、「当事者の一方」の意義を
どのように考えるかという問題が残ります。
判例は、この問題について、履行の着手とは「客観的に外部から認
識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供に不可欠
な前提行為をすること」という基準を示しました。
そして、履行に着手する「当事者の一方」とは誰のことなのかにつ
いては、解除される側のみを指し、自ら履行に着手した者は、相手
方が履行に着手するまでは解除権を行使できると判断しています。
今朝のお供、
The Stone Roses(イギリスのバンド)の『The Stone Roses』。
再結成の話題で持ち切りですね。
(佐々木 大輔)