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司法書士 田口司法事務所 スタッフブログ

 

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窃盗罪2-財物

No.66  平成23年8月27日(月)
 
今週は刑法の回です。
 
窃盗罪を含む財産罪(個人の財産を保護法益とする犯罪)は、客体
の違いによって、「財物罪」と「利得罪」に分類されます。
財物罪とは、財物(動産や不動産)に対する犯罪をいいます。
利得罪とは、財産上の利益を客体とする犯罪をいい、以前お話をし
た2項詐欺罪などのいわゆる2項犯罪と背任罪があります。
すべての財産罪に共通するのは財物罪ですので(たとえば窃盗罪に
利得罪は成立しません)、今回は財物罪の客体である「財物」につい
てお話しをさせていただきます。
 
さて、「財物」の意義をめぐっては学説においても、財物は有体物を
いうとする「有体性説」と、有体物はもちろん管理可能な限り無体
物も財物とする「管理可能性説」が対立しています。
そこで刑法第245条を見てみると、「この章(第36章)の罪につ
いては、電気は、財物とみなす」と書かれています。
刑法が「みなす」としているのは、もともとは財物でないものを、
刑法上の保護の必要性や処罰の妥当性の見地から財物と擬制してい
るものと考えられます。
したがって、この条文の趣旨は、「原則として財物は有体物に限るも
のとし、例外的に電気は財物として取り扱うものとしたにすぎない」
とする有体性説が妥当であるというのが私の立場です。
 
では、企業の秘密やノウハウなどの情報を盗んだ場合に窃盗罪が成
立するでしょうか。
情報自体は形を有さないので、有体性説、管理可能性説いずれの立
場に立っても財物には当たりません。しかし、情報を印刷した紙や
記録したフロッピー・ディスクを持ち出した場合には、窃盗罪が成
立します。
判例も、会社の機密書類を同社所有のコピー機を使ってコピーし、
これを社外に持ち出した事例について、「全体的にみて、単なるコピ
ー用紙の窃取でなく、同社所有の『コピーした機密書類』の窃取で
ある」と判示しています。同様に、大学入試の問題用紙、新薬の情
報などについても、情報そのものではなく、情報が化体された(観
念的な事柄が具体的な形のあるもので表された)「物」として扱って
います。
いずれも情報としての価値自体は財物に当たらないとする考え方で
す。
 
 
今朝のお供、
THEE MICHELLE GUN ELEPHANT(日本のバンド)の
『LAST HEAVEN’S BOOTLEG』。
ラストツアーのライヴアルバム。海外組に負けないロックバンドが
日本にも存在したことの証しです。

                      (佐々木 大輔)
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申込みと承諾

No.64  平成23年8月17日(水)
 
日本の民法には、典型的な契約として売買や賃貸借など13種類の
契約(「典型契約」などと呼ばれています)が規定されています。
今回から民法の回は、「契約」についてお話しさせていただきますが、
まず総論的なお話から入り、その後、典型契約をひとつずつ取り上
げていく予定です。
ということで、今回のテーマは「契約の申込みと承諾」です。
 
「申込み」とは、一定の契約を締結しようとする意思表示のことを
いいます。「承諾」とは、申込みを受けてこれに同意をすることによ
り契約を成立させる意思表示のことをいいます。
 
では、申込みや承諾の効力が発生する時期はいつでしょうか。
店員さんと対面で、「これをください」「はい、どうぞ」と商品を買
う場合には問題になりませんが、たとえば秋田に住んでいる人と東
京に住んでいる人が契約をするときのように、離れた場所に住んで
いる者同士が契約を締結する場合に問題となります。
結論は、原則として申込みの効力が発生するのは、申込みが相手に
到達した時です。したがって、到達前であれば、申込みを撤回する
ことができます。申込みのはがきを出した直後に翻意し、電話で撤
回する場面をイメージしてください。
一方、承諾の効力が発生するのは、承諾の通知を発した時です。
なぜ申込みと承諾の効力発生時期が異なっているのかについては、
民法典を起草した委員の間でも争いがあったところですが、現行の
民法は、承諾者が承諾通知を発したら直ちに履行(物品の調達など)
に移ることができるというメリットを重視しているようです。
 
とはいえ、承諾通知がなかなか到着しない場合、申込者は困ってし
まいます。そこでこれを避けるため、申込者は、「8月31日までお
返事ください」というように、承諾期間を定めて申込みをすること
ができます。承諾期間を定めれば、8月30日に承諾通知が発せら
れても、承諾期間内に届かなければ契約は成立しません。
ただし、遅れて着いた承諾通知に対して申込者がさらに承諾をすれ
ば、契約は成立します。
また、承諾期間を定めた場合、相手が承諾を発する前であっても、
承諾期間内は申込みを撤回することができません。
なお、承諾期間を定めなかった場合であっても、承諾通知を受ける
のに相当な期間が経過するまでは、申込みを撤回することはできま
せん。
 
 
今朝のお供、
R.E.M.(アメリカのバンド)の『COLLAPSE INTO NOW』。
独特な世界観をもった歌詞の内容は相変わらず難解ですが、音楽自
体は近作に比べて聴きやすくなった気も。

                      (佐々木 大輔)

窃盗罪1―不法領得の意思

No.62  平成23年8月1日(月)
 
「詐欺罪」に続き、刑法の回は、今回から数回にわたって刑法第2
35条の「窃盗罪」についてお話しさせていただきます。
 
窃盗罪が成立するためには、No.58でお話をした故意の他に、「不法
領得の意思」が必要となります。
不法領得の意思とは、権利者を排除して所有者として振る舞う意思
である「振舞う意思」と、物の経済的用法ないしは本来の用法に従
って利用処分する意思である「利用処分意思」のことをいいます。
なぜ窃盗罪が成立するためにこの不法領得の意思が必要かというと、
不可罰である使用窃盗や、毀棄・隠匿罪と窃盗罪を区別する機能が
あるからなのです。
振舞う意思は、軽微な一時使用を窃盗罪などの領得罪(その物の経
済的価値を取得する意思をもって財産を侵害する犯罪)から除外す
る機能をもち、利用処分意思は、領得罪と毀棄・隠匿罪とを区別す
る機能をもっています。
 
とはいえ、これだけでは何のことか分かりにくいですよね。具体例
を通してみていきましょう。
まず、振舞う意思から。
判例は、返還意思がある場合は不法領得の意思が認められないとし
て、不可罰としてきました。
例えば、自転車を一時使用の目的で奪った場合、すぐに返すつもり
であれば不法領得の意思は認められません。一方、返す意思はなく、
途中で乗り捨てるつもりであれば、不法領得の意思が認められます。
しかし、「自動車」を夜間無断使用翌朝
位置
に戻しておくことを何日も繰り返した事例に対して、「相当長
時間にわたって乗りまわしているのだから、たとえ返還意思があっ
ても不正領得(不法領得)の意思が認められる」として、窃盗罪が
成立するとした判例があります。また、「元の位置に戻しておくつ
もりで」約4時間余り他人の自動車を無断で乗りまわした場合にも
不法領得の意思を認めたものがあります。
 
次に、利用処分意思について。
リーディング・ケースとして、校長を困らせる意図で学校の金庫か
ら教育勅語を持ち出して校舎の天井裏に隠したという事例に対して、
利用処分意思は認められず窃盗罪にはならないと判示したものが有
名です。「単に物を壊したり隠したりする意思があるだけでは、利用
処分意思があるとはいえない」というのがその理由で、判例は、そ
の後も一貫してこの立場を採っています。
 
なお、不法領得の意思の内容について、「振舞う意思」、または「利
用処分意思」のいずれかであるとする見解が有力に主張されていま
すが、私は、一時使用や毀棄・隠匿罪との区別を明確にするために
は、いずれか一方のみでは十分ではないという立場に立っています。
 
 
今朝のお供、
Derek and the Dominos(アメリカのバンド)の『いとしのレイラ』。

                      (佐々木 大輔)

更新料について

No.60  平成23年7月19日(火)
 
7月15日、賃貸住宅の契約更新時に支払う「更新料」の効力につ
いて、最高裁判所の判断が示されました。身近な問題として以前か
ら注目されていた裁判でしたので、皆さんにとっても関心の高い裁
判だったのではないでしょうか。
 
判決の結論は、更新料が「高額すぎなければ有効」。
更新料の性質について、「一般には家賃の補充や前払い、賃貸契約を
円満に継続するための対価などの複合的な性質がある」と判断しま
した。
また、「家主と借り手との間には、更新料に対する情報量の格差があ
る」との原告側の主張に対しては、「契約書に具体的に記され、家主
と借り手が明確に合意している場合に、両者の間で情報や交渉力に
大きな格差はない」と指摘しました。
しかし、「高額すぎなければ」という結論に対する具体的な基準は示
されませんでした。
 
たしかに最近は、インターネット回線や地上デジタル放送への対応、
エアコンの完備が求められ、さらに不景気の影響もあり賃料を安く
抑えなければなかなか借り手がつかないなど、貸主の負担が大きい
という現実もあります。
今回の判決が更新料を有効と認めたことで、貸主の経済的負担が多
少は軽減されることと思います。
一方で消費者の保護に鑑みれば、更新料を名目として家賃以外の一
時金を上乗せし、不当に高額な金額を借主に負担させることがあっ
てはなりません。貸主には、今後更新料についてはもちろんのこと、
各地域特有の規約についても契約の際にしっかりと説明をする必要
が生じます。
「更新料が気に入らないならば契約時にノーと言うべき」という貸
主側の主張を通すためには、むしろ貸主は説明責任を重く課された
ものと今回の判決を受け止めなければなりません。
更新料を明記した契約書にサインを交わしただけでは説明責任を果
たしたとは言えず、明確な合意の基礎を欠く、というのが私見です。
 
 
今朝のお供、
サザンオールスターズの『世に万葉の花が咲くなり』。
なでしこジャパンのW杯世界一、おめでとうございます!
撫子は『万葉集』の時代から和歌に詠まれてきた花。日本古来の可
憐な花が、今を盛りと美しく咲きました。
                      (佐々木 大輔)

刑法における故意

No.58  平成23年5月23日(月)
 
犯罪事実が生じることを認識し、予見している心理状態を「故意」
といいます。
刑法は、「故意がなければ犯罪とはならない」ことを定めています。
条文を見てみましょう。刑法38条1項は「罪を犯す意思がない行
為は、罰しない」と規定しています。
犯人は、自分の行為によって、犯罪となる事実が発生することを知
っていなければなりません。
これは刑法の大原則なのです。
ただし、例外として(故意はなくても)過失があるときに処罰され
る場合があります。刑法は38条1項ただし書で、「法律に特別の規
定がある場合」には、過失犯の例外を認めています。
同じように人を死亡させた場合でも、故意がある場合は殺人罪(刑
法199条)で、上限は死刑、下限は懲役5年ですが、過失の場合
は過失致死罪(刑法210条)で、50万円以下の罰金となります。
このように過失犯の法定刑はかなり軽くなるため、故意があるかど
うかは大きな問題となります。
 
故意は行為の時点で認められなければいけません。しかし、犯罪と
なる事実が生じるのは、行為の時点からみると未来のことであり、
行為者にとって犯罪となる事実が生じるかどうかを予見することは
難しいことでもあります。
例えば、至近距離からピストルを発射する際、きっと銃弾が命中し
て相手は死亡するだろうと思っている場合には、殺人罪の故意を認
めることができるでしょう。
しかし、『ウイリアム・テル』で我が子の頭の上に乗せたリンゴを矢
で射ようとしているテルには、殺人罪の故意を認めてもよいのでし
ょうか。この時テルは、矢が我が子に命中するかもしれないという
ことを認識し、またそのことをある程度の可能性をもってあり得る
ことと予見しています。
このように、結果をはっきりと予見しているわけではないが、あり
得ないわけでもないと認識している状態を「未必の故意」(みひつの
こい)と学問上呼んできました。犯罪のニュースを報じる新聞記事
などでも目にすることのある難しい言葉です。
 
この未必の故意が問題となった判例として有名なのが、盗品有償譲
受け罪(他人が盗んだ物を買い取る罪。刑法256条2項)につい
ての判例です。
最高裁判所は、「必ずしも買った物が盗品であることを知っていなく
ても、盗品であるかもしれないと思いながら敢えてこれを買い取る
意思(未必の故意)があれば足りると考えるべきである」として、
未必の故意を確定的な故意と同様、「故意」と認めています。
つまり、ある犯罪事実が生じることを「あり得る」として認識・予
見し、それを容認・認容した場合には、故意(未必の故意)がある
と考えるのです。
 
この先には、「未必の故意」と「認識ある過失」の区別という複雑な
議論がありますが、それはまたの機会に。
 
                                    (佐々木 大輔)
 
 
申し訳ありませんが、6月中のブログは、都合により休ませていた
だきます。
次回のブログは、7月11日を予定しております。
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