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恩田陸の小説と出会う
No.158 平成29年2月13日(月)
先日、第156回直木賞の発表がありました。
受賞作は恩田陸著『蜜蜂と遠雷』。
新刊をあまり読む機会のなくなった私が、学生時代にお世話になっ
たカフェのマスターから薦められて、昨年久しぶりに手にした新刊
書でした。
ピアノコンクールに挑む若きピアニストたちの群像劇。これから読
まれる方もたくさんいらっしゃるでしょうから、あまり内容には触
れないようにしますが、演奏者によって解き放たれる音の一粒一粒
が、目に見えるかのように描写されていきます。
音楽を紡ぐ著者の言葉。それは、私の中に記憶として残る過去の名
演奏を想起させるのではなく、今まさに目の前で生み出された未知
の音を聴かせてくれるのです。
恩田氏は本作において、音楽を解説することではなく、「言葉で音
楽を奏でること」に挑んだのではないでしょうか。
読了後、小説の中で採りあげられた数々の名曲たち(幸いにも音源
が手元にあったので)を聴きながら余韻に浸りつつ、音楽を聴く際
は、もっとしっかり音楽と向き合って聴かなければいけないなと、
“ながら聴き”に堕しがちな自分を戒める機会にもなりました。
『蜜蜂と遠雷』で恩田氏の小説に初めて触れ、直後にもう1冊読ん
だのが『夜のピクニック』です。
以前から本屋に行くたび気になっていた小説で、著者名とタイトル
だけは知っていました。
なかなか手が伸びなかったのは、この小説につけられた「永遠普遍
の青春小説」というキャッチコピーのため。そろそろ不惑なもので、
今さら青春小説と言われてもなあ・・・と気おくれを感じていたの
です。
―全校生徒が夜を徹して80キロを歩きとおす北高の伝統行事「歩
行祭」。甲田貴子は密かな決意を胸に抱き、「歩行祭」に臨む。高
校生活最後のイベント。果たして彼女の思いは実を結ぶのか―
舞台は「歩行祭」ゆえにひたすら歩くだけ。特別な事件は起こりま
せんが、登場人物たちの心の機微を通じて、私にも確かにあった遠
い過去に再会することができました。
「もっと、ちゃんと高校生やっとくんだったな」。
読み終えてからネットの読者レビューなどに目を通すと、私と同じ
セリフに共感した人がけっこういました。「みんなそういう思いを
抱えて年齢を重ね、今を生きているのだな」と仲間意識が芽生え、
一緒にお酒でも酌み交わしたい気持ちになったのはご愛嬌、という
ことで。
今朝のお供、
Carpentersの曲「I Need to Be in Love(青春の輝き)」。