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刑法における故意
No.58 平成23年5月23日(月)
犯罪事実が生じることを認識し、予見している心理状態を「故意」
といいます。
刑法は、「故意がなければ犯罪とはならない」ことを定めています。
条文を見てみましょう。刑法38条1項は「罪を犯す意思がない行
為は、罰しない」と規定しています。
犯人は、自分の行為によって、犯罪となる事実が発生することを知
っていなければなりません。
これは刑法の大原則なのです。
ただし、例外として(故意はなくても)過失があるときに処罰され
る場合があります。刑法は38条1項ただし書で、「法律に特別の規
定がある場合」には、過失犯の例外を認めています。
同じように人を死亡させた場合でも、故意がある場合は殺人罪(刑
法199条)で、上限は死刑、下限は懲役5年ですが、過失の場合
は過失致死罪(刑法210条)で、50万円以下の罰金となります。
このように過失犯の法定刑はかなり軽くなるため、故意があるかど
うかは大きな問題となります。
故意は行為の時点で認められなければいけません。しかし、犯罪と
なる事実が生じるのは、行為の時点からみると未来のことであり、
行為者にとって犯罪となる事実が生じるかどうかを予見することは
難しいことでもあります。
例えば、至近距離からピストルを発射する際、きっと銃弾が命中し
て相手は死亡するだろうと思っている場合には、殺人罪の故意を認
めることができるでしょう。
しかし、『ウイリアム・テル』で我が子の頭の上に乗せたリンゴを矢
で射ようとしているテルには、殺人罪の故意を認めてもよいのでし
ょうか。この時テルは、矢が我が子に命中するかもしれないという
ことを認識し、またそのことをある程度の可能性をもってあり得る
ことと予見しています。
このように、結果をはっきりと予見しているわけではないが、あり
得ないわけでもないと認識している状態を「未必の故意」(みひつの
こい)と学問上呼んできました。犯罪のニュースを報じる新聞記事
などでも目にすることのある難しい言葉です。
この未必の故意が問題となった判例として有名なのが、盗品有償譲
受け罪(他人が盗んだ物を買い取る罪。刑法256条2項)につい
ての判例です。
最高裁判所は、「必ずしも買った物が盗品であることを知っていなく
ても、盗品であるかもしれないと思いながら敢えてこれを買い取る
意思(未必の故意)があれば足りると考えるべきである」として、
未必の故意を確定的な故意と同様、「故意」と認めています。
つまり、ある犯罪事実が生じることを「あり得る」として認識・予
見し、それを容認・認容した場合には、故意(未必の故意)がある
と考えるのです。
この先には、「未必の故意」と「認識ある過失」の区別という複雑な
議論がありますが、それはまたの機会に。
(佐々木 大輔)
申し訳ありませんが、6月中のブログは、都合により休ませていた
だきます。
次回のブログは、7月11日を予定しております。PR
未遂犯
No.57 平成23年5月9日(月)
No.47、No.51、No.55で詐欺罪についてお話をしましたが、今回は
そこでも何度か出てきた「未遂」についてお話をします。
未遂犯とは「犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった」場合をい
い、刑法43条の本文に規定されています。殺人未遂などはニュー
スでもよく耳にする言葉ではないでしょうか。
これに対して、人を殺す意思を持って実際に人を殺したときのよう
に、犯罪を最後まで実現した場合を既遂犯(既に遂げた犯罪)とい
います。
犯罪を最後までやり遂げた場合にだけ処罰され、途中で失敗した場
合には処罰されないというのでは、法益(法によって保護されるべ
き利益)の保護として十分ではありません。そこで、法益の侵害に
失敗した未遂犯も処罰されることがあるのです。刑法44条によれ
ば、未遂はそれを罰する規定がある場合にのみ処罰されますが、主
要な犯罪にはたいてい未遂の処罰規定があります。
それでは、どのような場合に未遂犯が成立するのでしょうか。
手掛かりは、43条本文の「犯罪の実行に着手」という文言にあり
ます。
昔の学説には、他人の家に空き巣に入ろうとしてその準備をした者
に、窃盗未遂罪の成立を認めるものもあったようです。これは、行
為者の罪を犯そうとする意思が外部に明らかとなったときに未遂犯
の成立を認めることができるという考えを根拠とする学説でしたが、
これでは未遂犯の成立をあまりにも早く認めることになってしまう
との批判があり、現在は採られていません。
現在では、「実行の着手」を客観的な事情をもって判断するのが一般
的です。
先に挙げた例のように、空き巣に入る場合では、家の中に入っただ
けでは窃盗の未遂にはなりませんが(住居侵入罪は成立します)、金
目の物はないかとタンスを物色しようとタンスに近づいた時に初め
て窃盗の「実行の着手」が認められ、窃盗未遂罪が成立することに
なります。
「実行の着手」以前の行為にも犯罪を認める例外もありますが(殺
人予備罪など)、通常、犯罪として処罰されるかどうかの基準は「実
行の着手」の有無に求められるため、「実行の着手」が重要な意味を
もつのです。(佐々木 大輔)
裁判員制度の合憲性
No.56 平成23年4月25日(月)
先日、新聞に興味深い裁判の記事が載っていました。
すっかり定着した感のある裁判員制度に対して、「憲法違反ではない
か」との訴えがあり、最高裁判所の大法廷がその合憲性を判断する
ことになったという記事です。
裁判の対象となった事件とは、被告が、海外から覚せい剤を密輸し
たとして、覚せい剤取締法違反などの罪に問われたというものです。
この事件について、千葉地方裁判所で開かれた第一審の裁判員裁判
では、被告に対し、懲役と罰金を科すとの判決が言い渡されました。
そこで被告側は、控訴審の東京高等裁判所に対し、「裁判官ではない
裁判員が刑事裁判に関与するのは違憲」であると主張しましたが、
「憲法は裁判官以外を裁判所の構成員とすることを禁じていない」
として退けられたため、被告側が最高裁判所に上告したのです。
上告審で被告側は、裁判員を市民から抽選で決めることは、「地裁の
裁判官は内閣が任命すると定めた憲法に反する」として、公平な裁
判を受ける権利を侵害されたと主張しています。
今回、最高裁の裁判官15人全員で審理するため、大法廷に回され
たことにより、裁判員制度について初めて最高裁の憲法判断が示さ
れることになると思われます。
私たちにとっても少なからず影響のある裁判です。
審理の結果を待ちましょう。(佐々木 大輔)
詐欺罪3―無銭飲食
No.55 平成23年4月11日(月)
今回は、No.47、No.51に続き、詐欺罪の少し細かいお話をさせて
いただきます。
まず、詐欺罪の条文(246条)を見てみましょう。
1項:人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処す
る。
2項:前項の方法により(人を欺いて)財産上不法の利益を得、又
は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。
1項と2項の一番の違いは、「財物」と「財産上の利益」ですね。財
物とは簡単に言うと「形あるもの」、財産上の利益とは「財物以外の
財産上の利益一切」を指すとされています。そして、財産上の利益
は目に見えないものですから、これを渡したと言えるためには、被
害者の「処分する意思」の有無が重要になると考えられています。
では、初めから代金を支払う意思がなく、レストランで食事をした
後、「ちょっとトイレに行ってくる」などと店員さんに嘘をついて逃
げた場合、詐欺罪が成立するでしょうか?
もちろん、詐欺罪が成立します。
この場合、代金を支払う意思がないにもかかわらず料理の注文をし
たこと自体が騙す行為になります。そして店員さんは「当然代金を
支払ってくれるもの」と信じて料理を提供したわけですから、騙さ
れた状態で料理を提供しています。したがって、財物を対象とした
詐欺罪の第1項が適用されます(1項詐欺罪と呼んだりします)。
次に、初めは代金を支払うつもりで料理を注文したものの、精算時
に所持金が足りないことに気付き、「友人を見送ってくる」などと嘘
をついて店先に出て逃走した場合、詐欺罪が成立するでしょうか?
代金を支払うつもりで料理を注文していますから、店員さんを騙す
行為はありません。精算時に支払う意思が無くなった後、嘘をつく
ことによって店員さんから何か財物を受け取ったわけではありませ
ん。なので、1項詐欺罪は成立しません。
それでは、詐欺罪の第2項は成立するでしょうか。
実は、最高裁判所は、このようなケースでは2項詐欺罪も成立しな
いと判断しています。
店員さんは「友人を見送る」ことを認めただけで、そこに「『代金の
支払いを受ける』という財産上の利益を処分する意思」がないため、
2項詐欺罪は成立しないというのがその理由です。
なお、財産上の利益は窃盗罪の対象にもならないため、窃盗罪も成
立しません(刑事上不可罰となります。)
※詐欺罪や窃盗罪が成立しないとしても、あくまでも刑事責任が問
われないだけで、民事上の責任(不当利得、損害賠償など)は生じ
ます。
疲れた頭のひと休めに、P.ニューマン主演の映画『スティング』な
どはいかがでしょう。R.レッドフォードも若い!
ちなみに、“sting”には、「騙す」という意味もあるんですよ。
(佐々木 大輔)
2つの裁判のゆくえ
No.54 平成23年3月28日(月)
今日は、私も注目していた、最近の2つの裁判に関するお話を。
No.49で、昨年7月参院選における「1票の格差」についての高等
裁判所判決をテーマに書きました。一連の裁判は最高裁判所に上告
され、現在も係属中です。
一方、09年8月衆院選で最大2.3倍あった「1票の格差」につ
いて、3月23日、一足先に最高裁の判決が出されました。
全国の有権者が「法の下の平等を保障した憲法に反する」として選
挙の無効を求める裁判を起こしていたものです。
この訴えを受けて、最高裁は、小選挙区の区割りを「違憲状態」と
判断しました(ただし、選挙無効請求は棄却)。
これまで最高裁は、「1票の格差」が3倍未満の衆院選はすべて「合
憲」としており、「違憲状態」と判断したのは今回が初めてのことで
す。さらに最高裁は、現在採用されている「1人別枠方式」(300
議席のうち47議席を各都道府県に1つずつ割り振り、残り253
議席を人口比率に応じて配分する方式)が、格差の主な要因である
と述べており、国会では早急な選挙区割りの見直しが必要となるで
しょう。
もうひとつ。No.45でとり上げた非嫡出子の裁判について。
最高裁の大法廷に回され、民法第900条の規定について憲法判断
がされるのではないかと、大いに注目を集めていた裁判でした。
この裁判は、被告の嫡出子と原告の非嫡出子が法定相続分どおり2
対1の比率で相続したことに対し、原告が相続分を平等とするよう
に求めていたもので、そもそも民法第900条の相続分規定が憲法
に反するのではないかと主張していたものです。
しかし、原告と被告の間で裁判外和解が成立したため、3月9日、
訴えの利益を欠くとして原告の訴えは却下されました。
民事訴訟法では、裁判をするためには「訴えの利益」が必要である
と規定しています。
訴えの利益とは、請求の対象となっている権利または法律関係の有
無について、裁判所によって判断を下されることが当事者間の争い
を解決するために有効かつ適切であることをいいます。
本件では、当事者同士で話し合いがついた以上、裁判所が判断を下
す必要はなくなったということです。
そのため、結局、憲法判断もされることなく終了しました。
大法廷に回され、民法第900条を合憲とした平成7年決定が覆る
可能性もあっただけに、肩透かしを食わされた気も・・・。
(佐々木 大輔)
申し訳ありませんが、4月、5月のブログについては、都合により
2週間に1回の更新とさせていただきます。
2週間に1回の更新とさせていただきます。