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クラウディオ・アバドのこと
No.118 平成26年2月17日(月)
去る1月20日、イタリアの名指揮者クラウディオ・アバドが亡く
なりました(享年80)。
アバドは、ウィーン・フィルとベルリン・フィルにデビュー後、ミ
ラノ・スカラ座音楽芸術監督、ロンドン交響楽団首席指揮者(のち
に同楽団初の音楽監督)、シカゴ交響楽団首席客演指揮者、ウィー
ン国立歌劇場音楽監督という音楽界最高のポストを歴任し、帝王カ
ラヤンの後継としてベルリン・フィルの芸術監督も務めました。
名実ともに現代最高のマエストロでした。
私が好むアバドの録音として真っ先に指を折るのは、70年代に4
つのオーケストラを振り分けたブラームスの交響曲全集の中から、
ベルリン・フィルと演奏した交響曲第2番です。若きアバドの指揮
のもと、カラヤンの楽器であったベルリン・フィルが、本当にのび
のびと演奏していて(特にゴールウェイの吹くフルートが素晴らし
い!)、まさにブラームスの田園交響曲と呼ぶにふさわしい、野を
渡る爽やかな風を感じます。
ロンドン交響楽団を振ったラヴェルの『ボレロ』も忘れるわけには
いきません。アバドに惚れ込んだ楽団員が、最後のクライマックス
で興奮のあまり思わず歓声を上げてしまったという録音で、(通常、
楽譜に指示がないものは不要なものとしてカットされるのですが)
この歓声はアバドの許可を得て、そのまま収録されています。すで
に次代のウィーン国立歌劇場首席指揮者のポストが決まっていたア
バドを、楽団員全員で引き止めたというエピソードを物語る熱演で、
『ボレロ』嫌いな私でも惹きこまれる演奏です。
大病を患い、ベルリン・フィルを退いたのち、2003年に就任し
たルツェルン祝祭管弦楽団の芸術監督は、アバドの晩年を代表する
ポストでしょう。
ルツェルン祝祭管弦楽団は、若手オーケストラを母体として、一流
オーケストラから首席クラスの演奏家や、普段はソリストとして活
躍するスター演奏家が、アバドを慕って世界中から集まり、一年に
一度結成されるオーケストラです。
アバドの十八番であるマーラーの交響曲を一曲ずつ取り上げてきま
したが、第8番が残り、全曲演奏は実現しませんでした。
数年前にはベルリン・フィルとの特別演奏会で、今までほとんど指
揮してこなかった交響曲『大地の歌』を演奏していたことから、
『大地の歌』を含むマーラー・チクルスが、ルツェルンとのコンビ
で完成するのではと大いに期待していたのですが・・・残念です。
アバドは、知的で清廉な演奏により、音楽そのものの素晴らしさを
教えてくれた真の芸術家でした。
ご冥福をお祈りします。
今朝のお供、
モーツァルトのピアノ協奏曲第12番(K.414)を、ルドルフ・ゼ
ルキンのピアノ、アバドの指揮によるロンドン交響楽団の演奏で。
老巨匠ゼルキンのピアノを、親子ほど年齢差のあるアバドが優しく
サポートする本演奏は、陽だまりの縁側で、ゼルキンが朴訥と語る
思い出話を、アバドが微笑みながら聞いているという趣の温かい演
奏です。
(佐々木 大輔)
耳へのご褒美
No.113 平成25年12月2日(月)
今回は、最近聴いて感銘を受けた1枚のCDを紹介します。
レーピンのヴァイオリン演奏によるヤナーチェク、グリーグ、そし
て有名なフランクのソナタを収めた1枚です。
ロシア人のレーピンは、ベルギーで開催された1989年エリザベ
ート王妃国際音楽コンクールの優勝者(第2位は諏訪内晶子)。
諏訪内氏の著書『ヴァイオリンと翔る』によると、この時のレーピ
ンは、ソ連の威信をかけ、国から「優勝を義務付けられて」西側の
コンクールに送りこまれた出場者だったとのことで、本国から派遣
された通訳、教師、ピアニスト、さらには秘密警察なども同行して
いたそうです(一説には彼の亡命を阻止する目的もあったとか)。
そして、コンクール会場へ向かう道中も、本国が用意した専属運転
手付きリムジンの後部座席で、大きな体をかがめながら必死の形相
でヴァイオリン(これも本国から貸与された故オイストラフ愛用の
名器!)を練習していたレーピンの姿は、諏訪内氏に忘れられない
ほどの衝撃を与えました。
ちなみに、諏訪内氏がジュリアード音楽院でヴァイオリンを学ぶと
ともに、コロンビア大学で政治思想史を専攻した理由のひとつは、
レーピンに見たソ連という国のあり方にあったとのことです。
閑話休題。
このCDに聴くことができるレーピンの演奏は、国の威信と国民の
期待を一身に背負わされた少年が、そのプレッシャーにつぶされる
ことなく演奏家として鍛錬を重ね、不惑にして揺るぎない大家への
道を歩み始めたことを確信させる名演でした。
もうひとつ音楽の話題を。
先月、イヤタカ・ヴァレリアーノで、コース料理を楽しみながら、
メゾ・ソプラノ歌手唐澤まゆ子さんとピアニスト飯野明日香さんの
デュオ・リサイタルを聴くことができました。飯野さんは、私がシ
ーガルクラブでお世話になっている税理士長谷部光重先生の姪御さ
んです。
フランス作品を中心とした、まるでヨーロッパを巡る旅行のような
素晴らしいプログラムの中、唐澤さんは、ケルビーノのアリア(『フ
ィガロの結婚』)では恋い焦がれる思春期の少年を、カルメンのアリ
アでは情熱的で妖艶な女性を演じて会場を魅了した後、小林秀雄作
曲の「落葉松」をしっとりと歌い、格別に美しい余韻を残しました。
飯野さんのピアノを聴くのは2年振りで、前回、リストの作品を中
心としたプログラムを聴いた折、彼女のたおやかでありながら凜と
した演奏から、「飯野さんの弾くベートーヴェンとウェーベルンの作
品を聴いてみたい」と思わされたものですが、今回念願のベートー
ヴェンを聴くことができたことは望外の喜びでした。
今朝のお供、
エミネム(アメリカのミュージシャン)の
『The Marshall Mathers LP2』。
私が思う彼の最高傑作『The Marshall Mathers LP』の続編として
(佐々木 大輔)
『椿姫』に寄せて
今年はオペラ作曲家ヴェルディ生誕200年記念の年。
私にオペラの魅力を教えてくれたのが、ヴェルディの『椿姫(ラ・
トラヴィアータ)』でした。
原題のトラヴィアータとは「道を踏み外した女」という意味のイタ
リア語。高級娼婦の過去を持つヴィオレッタは、アルフレードから
の告白を受け、彼の純粋な愛に戸惑いつつも一緒に暮らし始めます。
しかしある日、彼女は彼の父親に、娼婦という過去が娘(アルフレ
ードの妹)の縁談に差し支えるから息子と別れてほしいと懇願され、
悲しみの中、愛する彼のために身を引く決意をします。
父の懇願を知らないアルフレードは、裏切られたと激怒しますが、
数か月後、全ての事情を知り、許しを請うため彼女のもとへ駆けつ
けます。ところが再会した彼女は、肺の持病が進行し、死を待つば
かりの状態。再び一緒に暮らすことを誓い合い、再会を喜ぶのも束
の間、彼女は「いつか素敵な女性が現れてあなたに恋をしたら渡し
て欲しい」と自分の肖像を彼に託し、息を引き取ります。
カルロス・クライバーという指揮者の熱狂的なファンであった私は、
彼の録音を全て聴きたくて・・・といっても、彼が公式に録音した
オーケストラ曲のCDは十指に満たず、他に(当時は興味のなかっ
た)オペラ録音が数種あるだけ。「オペラかぁ・・・」と気が乗らな
いまま、クライバーの演奏を聴きたいがために仕方なく?手にした
のが、ヴェルディの『椿姫』でした。
ところが、クライバーの希少な録音だからと毎日聴き続けているう
ち、次第にクライバーを聴くという当初の目的は薄れ、すっかり
『椿姫』にはまってしまいました。
そうなると今度は『椿姫』の舞台を観たくなるのが自然の流れとい
うもので、次に入手したのがショルティ指揮コヴェントガーデン王
立歌劇場の映像です。
主役のヴィオレッタを歌うのは、ショルティが抜擢した若き日のゲ
オルギュー。その薄幸をまとう美しさは役のイメージどおり。この
舞台の大成功で、一躍世界的なプリマドンナへと飛躍したのも納得
です。ショルティの指揮も82歳(収録当時)とは思えないほど覇
気に満ちており、ときにもう少し繊細に・・・と望みたくなる部分
もあるほど。
このふたつの演奏により、すっかり『椿姫』そしてオペラを聴く楽
しみを知ってしまった私。その後、少しずつ好むオペラのレパート
リーが広がり、今では『椿姫』に接する機会も少なくなりましたが、
先日久しぶりにショルティ指揮のDVDを観賞。たちまち夢中だっ
た10代の頃がよみがえり、たしかにこれが私の青春に彩りを添え
てくれたのだと再確認。あの頃、心の隅々まで染み込ませた旋律は、
今も同じ輝きに満ちていました。
今朝のお供、
BON JOVI(アメリカのバンド)の『These Days』。
(佐々木 大輔)
ラトルの勇退
先日、ベルリン・フィル(BPO)の首席指揮者であるサイモン・ラ
トルが、2018年をもって、そのポストを退くことを発表しまし
た。2018年はまだ5年も先のこと、とも思いますが、BPOの首
席指揮者といえば、クラシック音楽界における最高峰のポスト。そ
の後継者を選ぶための期間としては、必要にして十分ともいえます。
2018年、ラトルは64歳。指揮者としていよいよ成熟に向かう
年齢ですが、彼は同郷であるビートルズの曲「When I’m Sixty-Four」
の歌詞を引用し、「64歳になっても、僕を必要としてくれるかい?」
と自らに問いかけ、今回の決断に至ったそうです。
ラトルは、若い頃からその才能を認められた存在で、20代から多
くの一流オーケストラに招かれキャリアを積んできました。BPO、
ウィーン・フィルの指揮台にもそれぞれ34歳、38歳でデビュー
しています(どちらもプログラムはマーラーの交響曲)。
1980年から98年まではバーミンガム市交響楽団の首席指揮者
を務め、その間、当時あまり知名度の高くなかった同オーケストラ
を、名実ともに世界的なオーケストラに育て上げました。
94年には、30代の若さでナイトの称号(サー)が与えられてい
ます。
BPOの首席指揮者として白羽の矢が立ち、2002年に就任した時
は47歳。これは奇しくも同ポストを34年間務めたカラヤン(カ
ラヤンの場合は終身首席指揮者兼芸術総監督)の就任時と同じ年齢
だったため、「ラトルの時代」「長期政権か」とも騒がれました。
ラトルの4期16年というのが長期なのかどうかは分かりませんが、
残り5年、さらに素晴らしい演奏を聴かせてくれることを楽しみに
しています。
退任後はフリーな立場で活動するのか、あるいは別のオーケストラ
の首席指揮者や音楽監督になるのか。
いずれにしても私としては、近年スケジュールの都合で共演の機会
が少なかったウィーン・フィルとの共演回数の増加、若い頃に衝突
して以来、関係が修復されているとはいえないコンセルトヘボウ管
弦楽団やクリーヴランド管弦楽団との再演を期待しています。
今朝のお供、
FUN.(アメリカのバンド)の『SOME NIGHTS』。
収録曲「WE ARE YOUNG」により今年のグラミー賞で主要2部門
(最優秀楽曲賞と最優秀新人賞)を受賞。
一度聴いたらメロディが頭から離れません。
(佐々木 大輔)
冬
12月半ば。秋田市もついに雪化粧です。雪が舞い始めると、いつ
も私の頭の中には、槇原敬之の曲「北風」が流れます。
そして12月と言えばクリスマス。街にもイルミネーションの光が
溢れています。
クリスマスが近づいてくると我が家では、サンタさんの絵が盤面に
描かれた思い出のレコードに針を落として楽しむことを以前のブロ
グで書きましたが、もう1枚、思い出のレコードがあります。
その1枚とは、キリスト最後の7日間を描いたアンドリュー・ロイ
ド・ウェバー作のミュージカル『ジーザス・クライスト・スーパー
スター』です。我が家にあるのは、映画版(1973年)のサウン
ドトラックで、今やクラシック音楽界の大巨匠アンドレ・プレヴィ
ンが指揮を務めるもの。
ちょっと話がそれますが、プレヴィンの指揮する音楽は、華美な虚
飾を排しながらも洒落ていて、特に彼のモーツァルトを聴くとほっ
こり幸せな気持ちになります。
とはいえ、もともとプレヴィンはジャズ畑出身の音楽家ですから、
『ジーザス』に聴くビートの効いた音楽の処理も素晴らしく、上
品になり過ぎないワイルドな演奏を堪能できます。
『ジーザス』の内容は、かなりシニカルで刺激的なものですから、
クリスマスにはそぐわないと思われる方もいらっしゃるかもしれま
せんが、我が家のクリスマスには欠かせないレコードです。
ミュージカルには詳しくない私ですが、ロイド・ウェバーの作品は
大好きで、『ジーザス』以外にも『オペラ座の怪人』『キャッツ』『エ
ヴィータ』などを愛聴しています。
今朝のお供、
IRON MAIDEN(イギリスのバンド)の『Fear of the Dark』。
ヘヴィ・メタルが聴きたい、と思ったとき真っ先に思い浮かぶバン
ドです。
(佐々木 大輔)