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司法書士 田口司法事務所 スタッフブログ

 

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真実を見抜く目を養う

No.127  平成26年8月25日(月)

 

先日、堤未果著『政府は必ず嘘をつく』という本を読みました。

あまり品がいいとは言えないタイトルですが(最近はインパクトば

かりを重視したタイトルの本が多く、あまり感心しません)、その
容は、9.11同時多発テロ以降のアメリカが抱える問題を明らかに
し、
東日本大震災以降の日本が同じ轍を踏まないよう警告するもの
でし
た。

堤氏は、ベストセラーとなった『ルポ 貧困大国アメリカ』等の著

作でも知られるジャーナリストです。

 

本書でまず目を引いたのは、「コーポラティズム」という言葉。

堤氏によると、想像を絶する資金力をつけた経済界が政治と癒着す

ることを表す言葉とのことです

堤氏は、アメリカの現状について、レーガン政権がメディアの企業

所有を解禁して以来、大資本によるマスメディア(テレビや新聞等)
の集中と系列化が
進んだことで、情報操作が頻繁に起こるようにな
り、多様な意見が
反映されなくなっていることを指摘。その結果、
アメリカの政治は、
資本が裏で糸を引く、名ばかり二大政党と化し、
「資本独裁国家」と
でも呼ぶべき状態に陥っていると慨嘆します。

これはアメリカに限られたことではないでしょう。

では、どうすれば真実を見抜くことができるのか。

堤氏は、「腑に落ちないニュースがあったら資金の流れをチェック」

し、「情報を比較する」ことが大切であると説きます。

 

その具体例のひとつとして挙げられているのが、2011年にリビ

アで起こった民主革命です。

民主革命である「アラブの春」が、リビアにも拡大したことを喜ぶ

リビア国民の様子が、日本においても連日報道されました。

しかし、堤氏は、「カダフィ政権が、ドルとユーロに対抗するため
統一通貨ディナの導入を計画していたこと」こそが、リビアの民
革命の引き金であったと看破し、「ディナが実現すれば、アラブ
とア
フリカは統合され、石油取引の決済がドルからディナに代われ
ば、
基軸通貨であるドルの大暴落は避けられない」とするアメリカ
の憂
慮が、リビア国民の民主化機運の高まり以上に、色濃く反映さ
れたものであったと主張します。

ちなみに、「アラブの春」の立役者となったフェイスブック(イン
ターネット上において、同じ目的を持つ仲間が交流を図るための会
員制サービス)は、
アメリカの会社が提供するサービスです。

 

ただし、本書の内容を全て鵜呑みにするのはいかがなものかな、と

いうのが私の正直な感想です。

本書には、たとえば立憲主義に対する堤氏の誤認(直接本書のテー

マとは関係がない部分であり、揚げ足をとるつもりはありませんが)

などがあり、はたして全ての内容が正しい知識に基づいて書かれて

いるのか心許なく思うところもあります。

また、堤氏の主張を裏付ける証言が、特定の人物からのみ得られた

ものであることが多く、公平さという側面にも疑問が残ります。

 

本書の内容も、堤氏というひとりのジャーナリストが発するひとつ

の情報ですから、堤氏自身が指摘するように、他の情報と比較し、

多角的な視点で考察する必要があるでしょう。

本当のメディアリテラシー(テレビや新聞等からの情報を主体的・
批判的に読み解く力)が試される一冊なのかもしれません。

 

 

今朝のお供、

MEGADETH(アメリカのバンド)の『RUST IN PEACE

サマソニのセットリストがコンパクトながらも豪華で・・・

                    (佐々木 大輔)

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『『論考』を読む』を読む

No.116  平成26年1月20日(月)

 

すっかり「時機に後れ」てしまいましたが、昨年読んだ本の感想を

今のうちにアップしておきます。

 

ウィトゲンシュタインの『論理哲学論考』(『論考』)は、彼が2
9歳
の時に執筆した著書で、20世紀における最も重要な哲学書と
して
有名ですが、これが当然のことながら難しい・・・。

そこで今回の(再々?)挑戦は、野矢茂樹著『ウィトゲンシュタイ

ン『論理哲学論考』を読む』を座右に置いて取り組むことにしまし

た。

 

ウィトゲンシュタインは、『論考』の執筆終了をもって、哲学の問
は全て解決されたと考え(のちにこの考えは彼自身が否定するこ
となりますが)、哲学の世界からいったん身を引き、もともとな
りた
かったという小学校教師となります。

事実、ウィトゲンシュタインの生前に出版された著書は、この『論

考』と『小学生のための語彙集』(小学生用の辞書)だけです。

 

さて、件の『『論考』を読む』は、野矢教授の他の著書にもみられ
とおり(私は野矢教授の著書が好きで、法科大学院入試の準備の
にもお世話になりました)、柔らかく、時にユーモアのある語り
口で、
読みやすく書かれてはいますが、入門書としてお茶を濁した
もので
はありません。

危険なのは、その読みやすさゆえ、『論考』を理解したつもりにな
ところ。また、本書の後半では、野矢教授独自の主張を展開して
る部分も多々あることから、あくまでも野矢教授の解釈による
『論
考』として受け止める必要があるのかもしれません。

 

残念ながら、今回も私は本体の『論考』について、ここで語ること

ができるだけの理解は叶いませんでした。

それでも、時をおいてまた挑戦したくなる魅力から逃れられそうに

ありません。

 

 

今朝のお供、

Maroon 5(アメリカのバンド)の『IT WON’T BE SOON BEFORE

LONG』。

それにしてもヴォーカルのアダムの声には色気がありますねえ。

5曲目大好きです。ちょっとThe Policeっぽいけれど。

                       (佐々木 大輔)

考えさせられた

No.108  平成25年9月24日(火)

 

先日読んだ平野啓一郎著『ドーン』という小説は、久しぶりに読み

応えのある作品でした。

 

ご存知の方も多いかと思いますが、平野氏は大学在学中にデビュー

作『日蝕』で芥川賞を受賞。大学生の同賞受賞は、石原慎太郎(『太

陽の季節』)、大江健三郎(『飼育』)、村上龍(『限りなく透明に
近い
ブルー』)に続く4人目でした。その才能から三島由紀夫の再来
と謳
われた一方、擬古文で書かれた難解な文体により敬遠する人が多
ったのも事実です。

恥ずかしながら私も、2作目の『一月物語』までは読んだものの、

その後、平野氏の作品を手に取ることはありませんでした。

 

今回取り上げる『ドーン』は、平易な文章で書かれています。

舞台は近未来。主人公は、2033年に人類で初めて火星に降り立

った宇宙船ドーンのクルー。3年後の2036年、無事地球へ帰還

して世界的な英雄になりますが、ドーンの中で起こったある事件が

原因で、アメリカ大統領選挙を巡る陰謀に巻き込まれていきます。

 

平野氏といえば、小難しい純文学ど真ん中の作家というイメージで

したが、本作はSFエンターテインメント小説としても楽しめます。

とはいえ、単なる娯楽で終わらないのは純文学作家の矜持なのか、

ここで平野氏は、「分人主義(dividualism)」という概念を持ち出
し、
「私とは何か」というテーマに戦いを挑みます。

「分人主義」とは平野氏の造語で、個人(individual)とは分割不

可能(divideできないもの)であるという概念に対し、個人とは分

割可能な分人(dividual)の集合体であるという考え方です。

 

―対人関係や居場所ごとに、自動的に現れる異なった自分(分人)

が存在するが、これは一個の主体が様々な仮面を使い分ける「キャ

ラを演じること」とは区別される。「キャラ」は、一個の主体が場
に応じて操作的に使い分けるものであり、「分人」は向かい合う
相手
と協同的に個別に生じるものである―

平野氏はこのように考えます。

 

従来の意味での「本当の自分」に固執すれば、一個の主体ですべて

の相手や場面に対応しなければならなくなり、キャラを演じること

につながります。その結果として、人によっては、内面と外面のギ

ャップに苦しむことになってしまいます。

「私」とは、一個の「本当の自分」ではなく、それぞれが独立した

自分である各分人によって構成され、それらの自分を駆け巡りなが

ら思考する存在だと考えれば、キャラを演じることから解放され、

様々な顔を持つ自分のことも肯定することができるのではないでし

ょうか。

 

このようなテーマを、的確な表現で物語に落とし込んだ平野氏には、

「文筆家、かくあるべし」との凄みを感じました。

 

 

今朝のお供、

サザンオールスターズの曲「Ya Ya(あの時代を忘れない)」。

秋の風に乗って、夕暮れ迫る宮城の空に鳴り響いた5年振りの音。

                       (佐々木 大輔)

ソロモンの偽証

No.95  平成25年1月21日(月)
 
お正月休みを利用して、宮部みゆきの『ソロモンの偽証』を読みま
した。「小説新潮」の2002年10月号から2011年11月号ま
で長期にわたり連載されていた小説の単行本です。
内容は、ある中学校で生徒が亡くなった事件の真相を解明するため、
同級生達が有志で学校内裁判を行うというもの。
連載開始時期が「裁判員制度」の始まる前ということもあり、生徒
達が行う裁判は、アメリカの陪審制度を参考にした方式で行われま
すが、来るべき裁判員制度を見据えた内容だったともいえます。
 
圧倒されるのは、人物、特に中学生の心情描写です。
私の昔を思い返すと、中学生とは、多感でありながらもそれらを説
明するだけの経験や言葉を持ち合わせていない時期にあります。
今なら私も、当時の模糊とした自分の感情を振り返り、それらに何
らかの言葉を与えることもできますが・・・。
きっと宮部氏はこの作品を書くにあたり、登場人物の生徒達(架空)
にインタビューをして、聞き取った内容を整理し、それらに的確な
言葉を与えるという作業を行っていったのではないでしょうか。
 
もちろん、登場人物は作者の創作した架空の人物です。それは分か
っていても、やはり私は、作者がそれぞれの登場人物に根気強く語
りかけ、引き出した彼ら彼女らの生々しく偽りのない(しかし、混
沌とした)感情に秩序や形を与え、それらを記録していった結果が
この作品のように考えます。
 
これだけの大量の「資料」を捌き、文章を構築するという一流ジャ
ーナリストとしての腕と、そもそも「資料」自体作者の創造である
という文学者としての知性。これは宮部氏の『模倣犯』を読んだ時
も感じた才能です。
そればかりではなく、この作者が真の意味で素晴らしいのは、大人
が分かったように「それはこういうことなんだよ。いずれ君も大人
になればわかるよ」と上から目線で語らないという姿勢です。
過ちを犯した子、責任を感じて苦しむ子、無関心を装う子・・・、
全員に対して作者の眼差しは常に温かく、優しく、平等で、そして
だからこそ厳しい。
 
正直に言えば、ストーリーとしては無理や不自然な部分もあります。
それでも私がこの作品を傑作であると断言できるのは、物語として
のリアリティや仕掛けよりも、作者の真摯な眼差しを感じるからな
のです。
 
 
今朝のお供、
ブルーノ・マーズ(アメリカのミュージシャン)の『Unorthodox
Jukebox』。

                       (佐々木 大輔)

熱帯夜

No.85  平成24年9月3日(月)
 
毎日暑いですね。秋田の週末は連日35度を超える暑さ。9月だと
いうのに、いったいいつまでこの暑さは続くのでしょうか?
 
寝苦しくなかなか寝付けなかったため、睡魔を待つ間、先日直木賞
を受賞した辻村深月の『鍵のない夢を見る』を手にしました。
以前、彼女のデビュー作『冷たい校舎の時は止まる』を読んだこと
があったので、彼女の小説を読むのはこれが2冊目です。
『冷たい校舎』は、受験を目前に控えた高校を舞台としたミステリ。
作者が高校時代から書き始め、大学時代を通して書き上げたという
力作で、登場人物が執筆当時の作者と同世代ということもあり、思
春期の友情や悩みを上手くすくいあげた小説だった記憶があります。
一方、今回読んだ『鍵のない夢を見る』は、心情の機微の描き方が
さらに深く巧みになり、すっきりとした文体はそのままに、(素人の
私がいうのもおこがましいのですが)はっきりと作者の成長を感じ
とれる作品でした。
 
彼女のプロフィールを調べてみたところ、ペンネームである「辻村」
の「辻」は、彼女が大ファンであったミステリ作家の綾辻行人から
とられたとのこと。私も綾辻行人の大ファンですので、これは注目
しないわけにいきません。
 
結局、睡魔が訪れる前に読み終えてしまい、再び寝苦しい夜を過ご
したのでした。
 
 
今朝のお供、
Maroon 5(アメリカのバンド)の『Overexposed』。
10年前のデビューアルバムが日本でも大ヒットしたバンドの新作。
ブリティッシュ・ロック漬けの1か月でしたので、久しぶりのアメ
リカン・ロック。

                      (佐々木 大輔)
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